「簿記の独学中、テキストを読んでもわからない箇所があるけれど、質問できる人が身近にいない…」「ChatGPTのような生成AIを勉強に使ってみたいけれど、簿記の学習に活用しても大丈夫なんだろうか?」

このように感じている方は多いのではないでしょうか。簿記(ぼき、日々の取引を帳簿に記録し、会社やお店の経営成績・財産状況を明らかにするための技術)を独学で勉強する場合、通信講座や資格スクールと違って、わからないところをすぐに質問できる講師がそばにいないことが、独学ならではの大きな壁になりがちです。

一方で、ChatGPTをはじめとする生成AI(せいせいAI、質問を入力すると人間のような自然な文章で回答を作成してくれるAIサービス)を、勉強のサポート役として活用する人が増えています。24時間いつでも、何度でも気兼ねなく質問できる点は、独学の心強い味方になり得ると考えられます。

この記事では、監査法人に勤務する現役の公認会計士が、簿記の独学にChatGPTを活用する具体的な方法と、利用するうえで必ず知っておきたい限界・注意点を、実際に使えるプロンプト(AIへの質問文)の例つきで解説します。


結論:ChatGPTは簿記の独学の「学習パートナー」になり得る

結論からお伝えすると、ChatGPTは使い方次第で、簿記の独学を支える心強い学習パートナーになり得ると考えられます。特に、わからないことをすぐに質問できる相手がいない独学者にとって、24時間いつでも質問に付き合ってくれる存在は、理解を深めるだけでなく、モチベーションの維持という面でも助けになる可能性があります。

ただし、後述するとおりChatGPTは万能の家庭教師ではありません。計算を間違えたり、会計・税務のルールについて不正確な回答をしたりすることがあるため、テキストや問題集の代わりになるものではなく、あくまで理解を補助する「補助教材」として位置づけるのが安全な付き合い方だと考えられます。この前提を踏まえたうえで、具体的な活用法を見ていきましょう。


ChatGPTを簿記の独学に活用する4つの具体的な方法

ここからは、ChatGPTを簿記の独学に取り入れる具体的な方法を、実際の学習の流れに沿って4つ紹介します。まずは全体像を表で整理します。

活用法 使うタイミングの目安
①用語・仕訳の考え方を質問する インプット学習中、テキストを読んでもわからないとき
②間違えた問題の考え方を深掘りする 問題演習で間違えた直後
③自分の言葉で説明し添削してもらう ある程度学習が進んだ復習・総仕上げの段階
④オリジナル問題を作ってもらう 問題集をやり込んだ後に追加演習をしたいとき

①わからない用語・仕訳の考え方をかみ砕いて質問する

テキストの説明を読んでもピンとこない用語や、仕訳(しわけ、取引の内容を「借方(かりかた)」「貸方(かしかた)」という左右2つの側面に分けて記録する簿記の基本ルール)の考え方につまずいたときは、ChatGPTに「もっとかみ砕いて説明してほしい」「具体例を使って説明してほしい」と頼んでみるのがおすすめです。

テキストは紙面の都合上、限られた説明・例しか載せられませんが、ChatGPTであれば自分の理解度に合わせて、説明の切り口や具体例を何度でも変えて聞き直すことができます。「小学生でもわかるように説明して」「身近な例に置き換えて説明して」といった聞き方をすると、より理解しやすい回答が返ってきやすいと考えられます。

②間違えた問題の「なぜ間違えたのか」を深掘りして質問する

問題集の解説を読んでも、なぜ自分の答えが間違っていたのか、どこで考え方を誤ったのかがわかりにくいことがあります。このようなときは、自分がどう考えてその答えを出したのか(解答のプロセス)をChatGPTに伝えたうえで、「どこで考え方を間違えたのか教えてほしい」と質問してみましょう。

問題集の模範解説は「正しい解き方」を示すことが中心ですが、ChatGPTには自分の間違った思考プロセスそのものを見せて添削してもらえるため、同じ間違いを繰り返す原因になっている誤解に気づきやすいというメリットがあると考えられます。

③自分の言葉で説明してChatGPTに添削してもらう(ファインマン・テクニック)

学習した内容を自分の言葉で説明し直し、理解の抜け漏れをあぶり出す勉強法は「ファインマン・テクニック」と呼ばれ、物理学者リチャード・ファインマン氏の学習法に由来するとされています。「人に説明できて初めて、本当に理解したといえる」という考え方に基づいた勉強法です。

独学の場合、説明を聞いてくれる相手を見つけるのが難しいという課題がありますが、ChatGPTを相手にこの勉強法を実践することができます。たとえば「減価償却(げんかしょうきゃく、固定資産の取得にかかった費用を、使用できる期間にわたって少しずつ費用として計上していく会計処理)について、自分が理解した内容を説明してみるので、間違っている点や説明が不十分な点を指摘してください」といった形で頼んでみましょう。うまく説明できなかった部分、ChatGPTから指摘を受けた部分こそが、自分の理解が曖昧な箇所だと考えられます。

④オリジナルの模擬問題・穴埋め問題を作ってもらう

問題集の問題を一通り解き終えた後、同じような論点を別の切り口で復習したい場合は、ChatGPTにオリジナルの練習問題を作ってもらうという活用法もあります。「三分法による商品売買の仕訳問題を3問作ってください」のように頼めば、市販の問題集にはないパターンの問題で追加演習ができます。

ただし、この活用法は後述する「計算ミス」のリスクとも関わってきます。ChatGPTが作った問題の答え合わせは、必ず自分で仕訳のルールに沿って検算する、または模範解答が正しいかテキストと照らし合わせて確認する、という一手間を惜しまないようにしましょう。


【今すぐ使える】ChatGPTへの質問例(プロンプト集)

具体的にどう質問すればよいのか迷う方のために、そのまま使えるプロンプト(AIへの質問文)の例を紹介します。文中の()の部分を、自分がつまずいている論点に置き換えて使ってみてください。

例1:用語をかみ砕いて説明してもらう

簿記3級を独学で勉強している初心者です。
「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」という用語の意味を、
簿記をまったく知らない人でもイメージできるように、
身近な具体例を使って説明してください。

例2:間違えた問題の考え方を確認してもらう

簿記2級の問題を解いたのですが、不正解でした。
以下の情報から、どこで考え方を間違えたのか教えてください。

【問題文】(ここに問題文を貼り付ける)
【自分の解答】(ここに自分の解答を貼り付ける)
【そう考えた理由】(ここに自分の考えたプロセスを書く)

例3:自分の説明を添削してもらう(ファインマン・テクニック)

簿記の「減価償却」について、自分の理解で説明してみます。
中学生にもわかるレベルを目指しています。
説明の中に間違いや不十分な点があれば指摘してください。

(ここに自分の言葉での説明を書く)

このように、質問の背景(自分が今どのレベルで、何につまずいているか)を具体的に伝えるほど、ChatGPTからより的確な回答が返ってきやすくなると考えられます。


要注意!ChatGPTを簿記学習に使うときの3つの限界

ここまで活用法を紹介してきましたが、ChatGPTを簿記の独学に使ううえで、必ず知っておいていただきたい限界が3つあります。

①計算を間違えることがある

ChatGPTをはじめとする生成AIは、自然でもっともらしい文章を作ることは得意ですが、内部で人間の電卓のような厳密な計算処理をしているわけではないため、桁数の多い計算や、複数のステップを経る計算では答えを間違えることがあると考えられます。簿記の問題、特に精算表の作成や工業簿記(こうぎょうぼき、製造業の原価計算を扱う分野)の計算問題のように計算過程が長い問題では、途中の計算が誤っていても、もっともらしい体裁の解答が返ってくることがあるため注意が必要です。

②会計処理・税務上のルールについて不正確な回答をすることがある

簿記の会計処理には、原則と例外、複数の処理方法が認められている論点などが少なくありません。ChatGPTは、こうした細かいルールの適用条件を混同したり、実際の出題範囲とは異なる処理方法を「正しい」として回答したりすることがあると考えられます。特に税務上の取り扱い(消費税の処理など)は、会計上のルールとはまた別の専門的な判断が必要になる場合が多く、生成AIの回答だけを根拠にするのはリスクが高いといえるでしょう。

③出題範囲・試験制度の改定など「最新情報」には弱い

生成AIは、あらかじめ学習した時点までのデータをもとに回答を作る仕組みのため、学習データの時点より後に行われた出題範囲の改定や試験制度の変更については、正しく回答できない、あるいは古い情報のまま回答してしまう可能性があります。簿記検定は過去にも出題区分表の改定が行われたことがある試験だとされています。「今、何が正しいか」という最新性が求められる情報については、生成AIは不向きだと考えておいた方がよいでしょう。

これら3つの限界と、対処法の一例を一覧にまとめます。

限界 対処法の一例
計算を間違えることがある 自分で検算する、テキストの模範解答と照合する
会計・税務ルールについて不正確なことがある テキスト・問題集の解説を優先して確認する
最新の出題範囲・制度改定に弱い 日本商工会議所の公式サイトなど一次情報を確認する

ChatGPTの回答は鵜呑みにせず、必ず一次情報で確認する

ここまで紹介した3つの限界を踏まえると、ChatGPTの回答をそのまま鵜呑みにせず、必ず市販のテキスト・問題集や公式の情報で正誤を確認するという姿勢が何よりも重要だと考えられます。

具体的には、次のような一次情報と照らし合わせる習慣をつけることをおすすめします。

  • 使用している市販テキスト・問題集の該当ページの解説
  • 日本商工会議所が運営する簿記検定試験の公式サイト(出題範囲・試験制度の最新情報)
  • 資格スクールなどが公開している解説記事(できれば複数の情報源を比較する)

特に、テキスト・問題集の解説とChatGPTの回答が食い違った場合は、テキスト・問題集の内容を優先するのが安全な判断基準だと考えられます。市販の教材は出版時点で編集者・専門家によるチェックを経て作られているのに対し、生成AIの回答は前述のとおり誤りを含む可能性があるためです。

また、ChatGPTに質問する際に、「この回答は簿記の一般的なルールとして正しいと言い切れますか?例外はありますか?」のように、AI自身に回答の確度を尋ね直してみるのも一つの工夫です。ただし、この質問への回答自体にも誤りが含まれる可能性はゼロではないため、最終的な正誤判断は必ず自分でテキスト・公式情報を確認したうえで行うようにしましょう。テキスト・問題集の選び方に迷う方は、以下の記事もあわせてご確認ください。


独学が向いている人・通信講座が向いている人の違い

ChatGPTをうまく活用すれば、独学のハードルを下げられる可能性がありますが、それでも独学が誰にでも向いているとは限りません。

ChatGPTへの質問である程度疑問を自己解決でき、かつコツコツと自分のペースで学習を進められる方は、独学との相性がよいと考えられます。独学のメリット・デメリットや、勉強に必要なテキスト・電卓などの教材については、以下の記事で詳しく解説しています。

一方で、ChatGPTへの質問だけでは理解に自信が持てない方、モチベーションの維持が苦手で挫折した経験がある方、体系立てられたカリキュラムに沿って効率よく学びたい方には、通信講座も有力な選択肢です。通信講座であれば、出題ポイントに沿った教材と、講師への質問サポートを組み合わせて学習を進められます。スタディング・フォーサイト・クレアールなど主要な通信講座の価格・学習スタイル・サポート体制の比較は、以下の記事で詳しく解説しています。

ChatGPTを使った独学と通信講座は、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。基本的な学習は独学で進めつつ、ChatGPTだけでは解決しきれない不安が残る場合に通信講座を検討する、という組み合わせ方も考えられます。


まとめ

簿記の独学にChatGPTを活用する方法についてのポイントを整理します。

  • ChatGPTは、質問相手が身近にいない独学者にとって、24時間いつでも相談できる心強い学習パートナーになり得ると考えられる
  • 具体的な活用法として、①用語・仕訳の考え方の質問、②間違えた問題の考え方の深掘り、③自分の言葉で説明して添削してもらう(ファインマン・テクニック)、④オリジナル問題の作成、の4つが挙げられる
  • 一方でChatGPTには、計算ミス・会計や税務ルールの不正確な回答・最新情報への弱さという3つの限界があり、テキストや問題集の代わりにはならないと考えられる
  • ChatGPTの回答は鵜呑みにせず、必ず市販のテキスト・問題集や日本商工会議所の公式サイトなど一次情報で正誤を確認する姿勢が重要
  • ChatGPTだけで理解に自信が持てない場合や、体系立てられたカリキュラムを求める場合は、通信講座も選択肢に入れて検討するとよい

ChatGPTは、正しく使えば簿記の独学を支える便利な道具になり得ますが、あくまで「補助教材」であり、学習の土台はこれまでどおりテキスト・問題集を中心に据えることが大切だと考えられます。この記事で紹介した活用法やプロンプト例を参考に、ご自身の学習スタイルに合った形で取り入れてみてください。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としています。ChatGPTなど生成AIサービスの回答には誤りが含まれる可能性があるため、実際の学習では必ず市販のテキスト・問題集や日本商工会議所の公式サイト等の一次情報で内容を確認してください。簿記検定の出題範囲・試験制度は変更される場合がありますので、最新情報は日本商工会議所の公式サイトでご確認ください。

【筆者プロフィール】現役監査法人勤務の公認会計士。CPAラボ(cpalabo.com)にて会計・簿記・キャリア・お金に関する情報を発信中。