「社会保険料が安くなる」は本当?会社に勧められたときの注意点を公認会計士が解説
「社会保険料が安くなります」――ある日突然、会社からそう説明されたことはありませんか?あるいは、「社会保険料削減コンサル」「社会保険料適正化サービス」といった言葉を、SNSやWeb広告で見かけたことがある方もいるかもしれません。
近年、企業に対して「合法的に社会保険料を大幅に削減できます」とうたうコンサルティングサービスが増えています。これは基本的に会社(経営者側)に向けて営業される、いわば法人向けのサービスです。従業員であるあなたが直接契約するものではなく、勤務先が導入を決め、その結果として給与体系の見直しなどの説明を受ける、という形が一般的でしょう。
会社からの説明を聞くと、「会社の負担が減るだけでなく、あなたの給与から天引きされる社会保険料も減り、手取りが増える」というように、一見誰も損をしない話に聞こえることが多いはずです。
しかし、話はそう単純ではありません。手法によっては、将来受け取る年金や、病気・出産で仕事を休んだときの給付金が、知らないうちに減ってしまう可能性があります。また、行き過ぎた手法は、後から「認められない」と判断されるリスクも指摘されています。
この記事では、公認会計士の立場から、「社会保険料削減コンサル」がどのような仕組みで社会保険料を下げているのかを整理したうえで、給与所得者(会社員)本人の視点で見落とされがちなデメリットや、会社から説明を受けたときに確認しておきたいポイントを、中立的な立場でお伝えします。「絶対に危険」「絶対にお得」といった断定はせず、ご自身で判断するための材料を提供することを目指します。
「社会保険料削減コンサル」とは何をしているのか
まず、「社会保険料削減コンサル」と呼ばれるサービスが、具体的にどのような仕組みで社会保険料を下げようとしているのかを整理しておきましょう。
社会保険料は「標準報酬月額」で決まる
会社員(厚生年金保険・健康保険の被保険者)が毎月の給与から天引きされる社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料など)は、「標準報酬月額」(ひょうじゅんほうしゅうげつがく、毎月の給与額を区切りのよい等級に当てはめた金額)をベースに計算されています。標準報酬月額が高いほど、天引きされる社会保険料も高くなる仕組みです。
標準報酬月額がどのように決まるのか(4〜6月の給与で1年間の金額が決まる「定時決定」の仕組みなど)については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
標準報酬月額を下げるためによく使われる手法
「社会保険料削減コンサル」の多くは、この標準報酬月額を計算する基礎になる「報酬」の範囲を見直すことで、社会保険料を下げようとします。代表的な手法として、次のようなものが挙げられます。
- 給与の一部を、出張旅費や在宅勤務手当などの「実費弁償的な手当」に付け替える:実際にかかった費用を補填する性質のもの(実費弁償)と認められる手当は、社会保険上の「報酬」に含まれないため、標準報酬月額の計算基礎から除外できる
- 給与の一部を現物給与(自社製品の支給、社宅の利用など、金銭以外の形で支給するもの)に振り替える:現物給与は、評価方法によっては金銭で支給するより社会保険上の評価額を抑えられる場合があるとされている
- 雇用契約の一部を業務委託契約に切り替える:業務委託契約に基づく報酬は、そもそも社会保険(厚生年金保険・健康保険)の対象にならない
なお、経営者・役員向けには、月々の役員報酬を低く抑え、年3回以内の支給に限られる賞与の上限額を活用して報酬の多くを賞与で受け取る、といった別の手法も知られていますが、本記事では一般の会社員(従業員)に関わりの深い手法を中心に扱います。
これらの手法は、制度の趣旨に沿って実態を伴った形で運用されている限り、直ちに違法というわけではありません。しかし、実態が伴わないまま名目だけを変更している場合は、後述するようなリスクをはらんでいます。
なぜ「会社にも従業員にも得」に見えるのか
社会保険料削減コンサルが従業員側にも歓迎されやすい理由は、社会保険料が「労使折半」(ろうしせっぱん、健康保険料・厚生年金保険料などを会社と従業員が原則半分ずつ負担する仕組み)になっていることにあります。
標準報酬月額が下がれば、会社が負担する保険料が減るだけでなく、給与から天引きされる従業員自身の保険料も減り、その分だけ額面上の手取り額が増えます。「会社の負担も減り、自分の手取りも増える」という説明を受ければ、歓迎したくなるのも無理はありません。
しかし、社会保険料が安くなるということは、裏を返せば「社会保険から将来受け取れる給付を計算するベースも下がる」ということでもあります。次の章で、見落とされがちなデメリットを整理します。
一見得でも見落としやすい3つのデメリット
標準報酬月額が下がることで生じうる、給与所得者本人にとってのデメリットを整理します。
①将来の年金額が減る可能性がある
厚生年金保険料を納めた実績は、将来受け取る年金額(老齢厚生年金。原則65歳から受け取れる厚生年金の給付)の計算に反映されます。具体的には、加入期間中の標準報酬月額の平均などをもとに年金額が計算されるため、在職中の標準報酬月額が低く抑えられた期間が長くなるほど、将来受け取る年金額も少なくなる可能性があります。厚生年金の被保険者が亡くなった場合に遺族へ支給される遺族厚生年金についても、考え方は同様です。
老後資金がどれくらい必要になりそうかという考え方については、以下の記事もあわせてご確認ください。
②傷病手当金・出産手当金が減る可能性がある
健康保険からは、病気やけがで働けない期間の生活を支える「傷病手当金」(しょうびょうてあてきん)や、出産で休業する期間を支える「出産手当金」(しゅっさんてあてきん)といった給付が用意されています。これらの給付額は、いずれも標準報酬日額(標準報酬月額を30で割った金額)のおおむね3分の2が目安とされているため、標準報酬月額が下がれば、いざというときに受け取れる給付額も少なくなります。
③収入証明に影響する可能性もある
見落とされがちな点として、住宅ローンなどを組む際に必要になる収入証明(源泉徴収票など)への影響も挙げられます。給与の一部が旅費や業務委託料といった「給与以外」の名目に付け替えられると、書類上の給与収入が実際の手取り感覚より少なく見えることがあります。ローンの審査などを控えている場合は、この点もあわせて会社に確認しておくとよいでしょう。
極端な手法には「否認」リスクがある
制度の趣旨に沿った範囲での見直しであれば大きな問題は生じにくいですが、行き過ぎた手法には注意が必要です。
手法によって「適法性」の度合いが異なる
社会保険料を抑えるための手法といっても、その位置づけには次のようなグラデーションがあります。
| 手法の例 | 位置づけ |
|---|---|
| 昇給・賞与の支給タイミングの調整、非課税の通勤手当や実費相当の出張旅費の活用 | 制度の趣旨に沿った適正な運用の範囲内と考えられる |
| 実態を伴わない手当を新設し、給与の一部を「報酬に該当しない」ものへ形式的に付け替える | 実態と規程が一致しないと、後から否認されるリスクがある |
| 実質的に雇用関係が続いているにもかかわらず、契約形態だけを業務委託に変更する | 社会保険関連法令だけでなく、労働基準法上の保護(残業代・有給休暇など)からも外れる可能性があり、問題視されやすい |
出張旅費や業務委託契約などが社会保険上の「報酬」に含まれないと認められるのは、あくまで実態がそれに見合っている場合に限られます。たとえば、実際には出張していないのに一律で手当が支給されていたり、働き方や指揮命令関係が従来と変わらないまま契約形態だけ「業務委託」に切り替わっていたりする場合は、実態としては給与(報酬)とみなされる可能性があります。
年金事務所や健康保険組合などの保険者は、事業所への調査を通じて、届け出内容と実態が一致しているかを確認することがあります。実態と異なる届け出が発覚した場合、標準報酬月額がさかのぼって訂正され、不足していた保険料(追徴保険料)を追加で徴収されることになります。悪質なケースでは、法律上の罰則が科される可能性も指摘されています。
否認されると、従業員側にも追加負担が生じうる
ここで会社員として押さえておきたいのが、社会保険料は労使折半だという点です。仮に過去にさかのぼって標準報酬月額が訂正され、追徴保険料が発生した場合、その本人負担分については、従業員側にも追加で保険料の負担を求められる可能性があります。「会社が導入したコンサルだから、何かあっても会社の責任」と考えがちですが、保険料の一部を実際に負担しているのは従業員自身であることを忘れないようにしましょう。
コンサル会社がリスクを負わない契約になっているケースも
社会保険料削減コンサルの中には、契約書上「あくまで会社の経営判断として導入した」という位置づけにし、後から問題が発覚してもコンサル会社側は責任を負わない体制になっているケースがあると指摘されています。仮に会社がこうした契約を結んでいた場合、否認された際のリスクは実質的に会社、そして保険料を折半で負担する従業員が負うことになる点も、知っておく価値があるでしょう。
会社から説明を受けたときに確認しておきたいチェックリスト
実際に会社から「社会保険料が安くなる制度を導入する」と説明を受けたときや、そうした勧誘の存在を知ったときは、次のような点を確認しておくと安心です。
- 何が、どのような名目に変わるのか:給与のどの部分が、旅費・手当・業務委託料など、どのような名目に変わるのかを具体的に確認する
- 実態を伴っているか:出張旅費であれば実際の出張実績、業務委託であれば実際の働き方や指揮命令関係が、名目と一致しているかを確認する
- 標準報酬月額がどう変わるか:見直し後の標準報酬月額の見込みを確認し、将来の年金や傷病手当金・出産手当金にどの程度影響するのかを説明してもらう
- 導入は義務か選択制か:全員一律の導入なのか、従業員が希望するかどうかを選べる制度なのかを確認する
- 否認された場合の取り扱い:万が一、後から年金事務所等に否認された場合、追徴保険料の本人負担分がどう扱われるのかを確認する
- 書面で内容が残っているか:口頭説明だけでなく、制度の内容や旅費規程などの社内規程が書面で整備され、閲覧できるかを確認する
これらを確認したうえで、納得できない点や不安な点がある場合は、社会保険労務士など専門家に相談することも選択肢の一つです。
社会保険料の見直しがすべて「怪しい」わけではない
ここまで注意点を中心に見てきましたが、社会保険料の負担を適正化すること自体が悪いわけではありません。たとえば、次のような取り組みは、実態を伴った適正な範囲の運用として紹介されることが多いものです。
- 賞与の支給タイミングや配分方法を、制度の仕組みを踏まえて見直す
- 通勤手当や出張旅費など、もともと非課税・社会保険の対象外とされている手当を、実態に沿って適切に活用する
- 企業型確定拠出年金(企業型DC、会社が掛金を拠出し従業員が自分で運用する退職金制度の一種)など、社会保険料の対象にならない形での福利厚生を充実させる
これらはいずれも、実態を伴った制度の適正な活用であり、行き過ぎた「付け替え」とは区別して考える必要があります。会社から説明を受けた際は、それが制度の適正な活用なのか、実態を伴わない付け替えに近いのかを、この記事で紹介したポイントをもとに確認してみてください。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
- 「社会保険料削減コンサル」の多くは、標準報酬月額の計算基礎となる「報酬」の範囲を見直すことで、社会保険料を下げようとするサービス
- 社会保険料は労使折半のため、標準報酬月額が下がれば会社の負担だけでなく従業員の手取りも増えるように見える
- 一方で、標準報酬月額が下がると、将来の年金・傷病手当金・出産手当金など、給与所得者本人が受け取る給付額も減る可能性がある
- 実態を伴わない手法は、年金事務所等の調査で否認され、追徴保険料が発生するリスクがある。労使折半である以上、その一部は従業員側にも及びうる
- 会社から説明を受けたときは、名目・実態・標準報酬月額への影響・否認時の取り扱いなどを具体的に確認することが大切
「社会保険料が安くなる」という説明をそのまま受け止めるのではなく、その裏側でどのような仕組みが働いているのかを理解したうえで、ご自身が納得できるかどうかを判断する材料にしていただければと思います。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としています。社会保険関連の制度・法令の適用可否は個々の状況によって異なるため、具体的な判断や対応については、社会保険労務士など専門家にご相談のうえご自身で判断してください。
【筆者プロフィール】現役監査法人勤務の公認会計士。CPAラボ(cpalabo.com)にて会計・簿記・キャリア・お金に関する情報を発信中。

