【簿記2級】工業簿記が苦手な人へ|つまずきポイントをわかりやすく公認会計士が解説
「工業簿記がどうしても理解できない」「商業簿記は解けるのに、工業簿記になると急に手が止まる」「パターンを覚えても応用問題になると解けない」
工業簿記(こうぎょうぼき、製造業が製品を作るためにかかった原価を計算し、記録する簿記の分野)は、簿記2級で新しく登場する範囲であり、それまで学んできた商業簿記(しょうぎょうぼき、商品の仕入れや販売など日常的な取引を記録する簿記の分野)とは考え方が大きく異なります。そのため、多くの学習者が最初につまずくポイントになっています。
この記事では、監査法人に勤務する現役の公認会計士が、工業簿記が苦手になりやすい理由と、主要分野ごとのつまずきポイント、そして苦手意識を克服するための具体的な勉強法をわかりやすく解説します。
そもそも工業簿記とは?商業簿記との違い
商業簿記と工業簿記の違いを一言でいうと、「何を記録する簿記か」という点にあります。商業簿記は、商品を仕入れてそのまま販売する取引を記録する分野です。八百屋が野菜をそのまま売るように商品の形が変わらないため、多くの人にとって取引のイメージがつかみやすいという特徴があります。
一方、工業簿記が対象とするのは製造業です。工場で原材料を仕入れ、機械や人の手を加えて製品を作り上げ、販売するまでの流れを記録します。原材料が製品になるまでの過程で、原価計算(げんかけいさん、製品を作るためにかかった費用を集計し、製品1個あたりのコストを計算する手続き)という、商業簿記にはない作業が必要になる点が最大の違いです。多くの受験者は工場で働いた経験がなく、原材料が仕掛品(しかかりひん、製造の途中でまだ完成していない製品のこと)を経て製品になっていく過程をイメージしにくいため、ここでつまずきやすくなります。
なお、簿記3級は商業簿記のみが出題範囲で、工業簿記は含まれていません。
そのため、3級で商業簿記の成功体験を積んだまま2級に進むと、工業簿記という「初めて見る科目」にいきなり出会うことになります。この段差こそが、多くの人が工業簿記でつまずく一因です。日商簿記検定は3級・2級・1級と上がるにつれて工業簿記(原価計算)の比重も大きくなっていく試験制度になっており、検定全体の構成は以下の記事でも紹介しています。
工業簿記が苦手になりやすい3つの理由
工業簿記が苦手になりやすい理由を、3つに整理しました。
①製造業の原価計算という、日常生活に馴染みのない世界を扱う 工業簿記の中心は、工場でモノを作る過程でかかった原価を計算することです。買い物や外食のように誰もが日常的に経験する取引を扱う商業簿記と違い、多くの人にとって工場の生産プロセスは実際に見たことも触れたこともない世界です。イメージが湧きにくいぶん、教科書の説明を読んだだけでは理解が定着しにくくなります。
②聞き慣れない専門用語が一気に増える 仕掛品、製造間接費、配賦(はいふ、間接的にかかった費用を一定の基準で各製品に割り振ること)、原価差異など、工業簿記では商業簿記になかった専門用語が次々と登場します。用語の意味を一つひとつ丁寧に理解しないまま計算練習に進んでしまうと、何を計算しているのか分からなくなり、苦手意識につながります。
③図や表を使って考える機会が多い 工業簿記の計算は、数字を公式に当てはめるだけでなく、原価の流れを図で整理しながら解く問題が中心です。図表を使った視覚的な思考に慣れていないと、計算のしくみそのものより「図の描き方」でつまずいてしまうことがあります。
工業簿記の全体像|4つの主要分野とつまずきポイント
工業簿記の出題範囲は多岐にわたりますが、大きく整理すると次の4つの分野に分けられます。それぞれの分野のつまずきやすいポイントと対策を一覧にしました。
| 分野 | つまずきやすいポイント | 対策 |
|---|---|---|
| 費目別計算 | 原価と費用の違い、勘定科目の分類が覚えにくい | 分類表を作り、具体例を仕分ける練習を繰り返す |
| 個別原価計算・総合原価計算 | 製造間接費の配賦、仕掛品の計算方法の使い分け | ボックス図で仕掛品の動きを可視化し、パターンごとに解く |
| 標準原価計算・差異分析 | 差異の種類が多く、有利差異・不利差異の判断が混乱する | 同じ形の図(シュラッター図など)で毎回解く習慣をつける |
| 直接原価計算・CVP分析 | 全部原価計算との違い、公式の意味がつかめない | 損益計算書のひな形に数字を当てはめて考える |
それぞれの分野を詳しく見ていきましょう。
費目別計算
費目別計算(ひもくべつけいさん)とは、工場でかかった原価を「材料費(ざいりょうひ、製品の原材料にかかった費用)」「労務費(ろうむひ、工場で働く従業員の賃金など)」「経費(けいひ、材料費・労務費以外の原価。工場の減価償却費や水道光熱費など)」の3つに分類・集計する、原価計算の最初のステップです。
つまずきやすいのは、商業簿記の「かかった費用はその期の損益計算書にそのまま計上する」という感覚から、工業簿記の「原価はいったん製品の原価(仕掛品・製品という資産)になり、販売されるまで費用にならない」という考え方への切り替えです。また、特定の製品に直接結びつく直接費と、複数の製品に共通してかかる間接費の仕分けにも慣れが必要です。
まずは材料費・労務費・経費という3分類を軸に、身近な製造業(パン屋など)を例に、具体的な費用がどこに分類されるかを繰り返し仕分ける練習をすると感覚がつかみやすくなります。
個別原価計算・総合原価計算
個別原価計算(こべつげんかけいさん)は、注文を受けてオーダーメイドで製品を作る場合の原価計算方法で、製造指図書(せいぞうしずしょ、注文ごとに発行される製造の指示書)ごとに原価を集計します。総合原価計算(そうごうげんかけいさん)は、同じ規格の製品を大量生産する場合の方法で、一定期間の原価合計を生産量で割り、製品1個あたりの原価を計算します。
つまずきやすいのは、製造間接費をどのような基準で各製品に割り振るか(配賦)という考え方と、総合原価計算特有の完成品換算量(かんせいひんかんさんりょう、製造途中の仕掛品を完成品に換算すると何個分に相当するかを表す数量)の計算です。月末に作りかけの仕掛品が残る場合、月初分と当月分を区別せず平均する平均法(へいきんほう)と、先に着手した分から先に完成すると仮定する先入先出法(さきいれさきだしほう)のどちらを使うかで、原価の配分結果も変わります。
この分野は、ボックス図(仕掛品の勘定を箱の形で表し、数量と金額を書き込みながら整理する図)を使って解く問題が中心です。文章だけで理解しようとせず、実際に手を動かして図を描きながら演習することが最短ルートです。
標準原価計算・差異分析
標準原価計算(ひょうじゅんげんかけいさん)とは、あらかじめ製品1個あたりの目標原価(標準原価)を決めておき、実際にかかった原価(実際原価)と比較する原価計算の方法です。この差を分析することを差異分析(さいぶんせき)と呼びます。
つまずきやすいのは、差異の種類の多さです。材料費は価格差異と数量差異、労務費は賃率差異と時間差異、製造間接費は予算差異・能率差異・操業度差異というように、原価の要素ごとに複数の差異に細分化されます。さらに、実際原価が標準原価より少なければ有利差異、多ければ不利差異と判断する必要があり、この符号の向きで混乱しがちです。
差異分析には、シュラッター図と呼ばれる図表を使う解き方が定番です。最初は難しく感じても、同じ形の図を繰り返し描いて解く練習をすることで、どの問題でも同じ手順で対応できるようになります。
直接原価計算・CVP分析
直接原価計算(ちょくせつげんかけいさん)は、原価を変動費(へんどうひ、生産量に応じて増減する費用。材料費など)と固定費(こていひ、生産量にかかわらず一定額発生する費用。家賃や減価償却費など)に分け、変動費だけを製品原価とする方法です。財務諸表の作成に使う全部原価計算(ぜんぶげんかけいさん、変動費・固定費の両方を製品原価に含める通常の方法)とは目的が異なり、直接原価計算は主に社内の経営管理に使われます。
CVP分析(シーブイピーぶんせき、Cost・Volume・Profitの関係を分析する手法)は、直接原価計算の考え方をもとに、損益分岐点(そんえきぶんきてん、売上高と費用が一致し利益がゼロになる売上高)などを求める分析です。
つまずきやすいのは、「全部原価計算と直接原価計算、どちらが正しいのか」という混乱と、限界利益(げんかいりえき、売上高から変動費を差し引いた利益)など公式の数が多く感じられる点です。公式を丸暗記せず、「売上高-変動費=限界利益」「限界利益-固定費=営業利益」という損益計算書のひな形に、毎回同じ順番で数字を当てはめる練習をすると、公式は自然に身についていきます。
工業簿記は実は得点源になりやすい
ここまで読むと「工業簿記は大変そうだ」と感じるかもしれませんが、実は工業簿記は、正しく対策すれば得点源にしやすい分野です。
一般的に、日商簿記2級の配点は商業簿記(第1〜3問)が60点、工業簿記(第4・5問)が40点とされています(配点・出題形式は変更される可能性があるため、最新情報は日本商工会議所公式サイトでご確認ください)。商業簿記は特殊商品売買・本支店会計・連結会計など出題範囲が広く、初見の問題への対応力が求められます。一方の工業簿記は出題パターンがある程度決まっており、ボックス図やシュラッター図といった「型」を身につけてしまえば、同じような手順で安定して得点しやすいという特徴があります。
姉妹記事でも解説しているとおり、工業簿記を後回しにせず、早い段階からコツコツ「型」を身につけておくことが、合格ライン(70点)を安定して超えるための土台になります。
工業簿記の苦手意識を克服する5つの勉強法
工業簿記への苦手意識を克服するために、具体的な勉強法を5つ紹介します。
①全体像を先につかむ いきなり個々の計算方法を細かく覚えようとすると、全体のどこを勉強しているのか見失いがちです。「費目別計算→個別原価計算・総合原価計算→標準原価計算・差異分析→直接原価計算・CVP分析」という流れが、原価計算という一つのストーリーの各段階であることを意識しましょう。全体像を先につかんでおくと、個々の論点を学ぶときに「今どこを勉強しているか」がわかり、理解のスピードが上がります。
②ボックス図・勘定連絡図を使って可視化する 工業簿記は文章だけで理解しようとすると挫折しやすい分野です。仕掛品や製品の動きを箱の形で整理するボックス図や、原価が材料→仕掛品→製品→売上原価とどう流れていくかを表す勘定連絡図(かんじょうれんらくず)を、自分の手で繰り返し描いてみましょう。図を描く習慣がつくと、初めて見る問題でも同じ手順で対応できるようになります。
③パターン演習を繰り返す 工業簿記は出題パターンがある程度決まっているため、同じ論点の問題を数多く解いて「型」を体に染み込ませることが効果的です。1問をじっくり考えるより、同じパターンを繰り返し解き、見た瞬間に解き方が浮かぶ状態を目指しましょう。
④専門用語は自分の言葉で説明できるようにする 仕掛品、製造間接費、配賦といった専門用語は、定義を丸暗記するだけでは計算に結びつきません。「仕掛品はつまり作りかけの製品のことだ」というように自分の言葉で言い換えられるか、都度確認する習慣をつけると用語への抵抗感がなくなっていきます。
⑤動画講義を活用して視覚的に理解する ボックス図や勘定連絡図は、テキストの静止した図を読むより、講師が実際に描きながら説明する動画講義で学んだほうが理解しやすいことが多くあります。独学でイメージがつかみにくいと感じる方は、通信講座の活用も検討してみましょう。
スタディングはスマホひとつで講義動画から問題演習まで完結できる通信講座です。1講義が5〜10分程度と短く、通勤・通学などのスキマ時間に、工業簿記のボックス図の描き方を繰り返し視聴して復習するといった使い方もできます。

スタディング以外の通信講座も比較したうえで選びたい方は、以下の記事で価格・学習スタイル・サポート体制を比較しています。
まとめ|工業簿記は「知らない世界」への戸惑いを乗り越えれば得点源になる
工業簿記が苦手になりやすい理由と、費目別計算・個別原価計算・総合原価計算・標準原価計算・差異分析・直接原価計算・CVP分析という4つの主要分野のつまずきポイント、そして克服のための勉強法を解説しました。
工業簿記は、簿記3級までの学習にはなかった「製造業の原価計算」という新しい世界を扱うため、多くの人が2級で初めてつまずきます。しかし、その正体は単に日常に馴染みがないというだけで、内容そのものが飛び抜けて難しいわけではありません。全体像を先につかみ、ボックス図・勘定連絡図で可視化し、パターン演習を繰り返せば、配点の高い得点源に変えていくことができます。
工業簿記を含めた簿記2級全体の勉強時間の目安やスケジュールは、以下の記事で詳しく解説しています。学習計画を立てる際にあわせてご確認ください。
※本記事の内容は一般的な学習法の紹介を目的としています。試験範囲・出題傾向の最新情報は日本商工会議所の公式サイトでご確認ください。
【筆者プロフィール】現役監査法人勤務の公認会計士。CPAラボ(cpalabo.com)にて会計・簿記・キャリア・お金に関する情報を発信中。



