開業届の書き方【記入例つき】|個人事業主向けに公認会計士がわかりやすく解説
「フリーランスとして独立することになったけど、開業届って何のこと?」「いつまでに、どこへ出せばいいの?」「いざ書類を見たら、聞き慣れない欄が並んでいて手が止まった」――個人事業主として新しく事業を始める方から、こうした声をよく聞きます。
開業届(かいぎょうとどけ)とは、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人で新たに事業を始めたことを税務署に知らせるための書類です。提出自体はそれほど難しい手続きではありませんが、初めて目にする方にとっては記入欄の意味がわかりにくいところもあります。
この記事では、公認会計士の視点から、開業届の提出期限・提出先・提出方法と、具体的な書き方を初めての方にもわかるように整理します。あわせて、開業届を出すメリット・デメリットも解説します。なお、開業届とセットで提出されることが多い「青色申告承認申請書」については、記事の後半で紹介する別記事に詳しくまとめていますので、本記事では開業届自体の書き方に絞って解説します。
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)とは
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。個人で新たに事業を始めたときや、事業所を移転・廃止したとき、事業をやめたときなどに、その事実を納税地(のうぜいち、税金の申告・納付の基準となる場所)を所轄する税務署に届け出るための書類です。
よく似た名前の書類に「事業開始等申告書」がありますが、これは開業届とは別の書類です。開業届は所得税(国税)に関する書類で税務署に提出するのに対し、事業開始等申告書は個人事業税(地方税)に関する書類で、都道府県税事務所に提出します。提出先も根拠となる税金も異なるため、開業届を提出したからといって事業開始等申告書の提出が不要になるわけではありません。様式や提出期限は都道府県によって異なるので、詳細はお住まいの都道府県税事務所に確認しましょう。
開業届の提出期限はいつまで?
開業届の提出期限は、2026年(令和8年)1月1日を境に大きく変わりました。
| 時期 | 提出期限 |
|---|---|
| 2025年(令和7年)12月31日までに開業 | 事業を開始した日から1ヶ月以内 |
| 2026年(令和8年)1月1日以後に開業 | その年分の所得税の確定申告(1年間の所得と税額を計算して税務署に申告する手続き)の期限まで(原則として翌年3月15日ごろ) |
たとえば2026年6月に開業した場合、2026年分の所得税の確定申告期限にあたる2027年3月15日ごろまでに提出すればよいことになります。従来の「1ヶ月以内」という期限を耳にしたことがある方も多いと思いますが、これから開業する方の多くは、緩和された後者のルールが適用されます。
ただし、期限に余裕ができたからといって後回しにするのはおすすめできません。理由は主に2つあります。
- 屋号入りの銀行口座開設など、開業届の控えを前提とする手続きがある
- 開業初年度から青色申告のメリットを受けたい場合、青色申告承認申請書は今回の改正の対象外で、原則として開業日から2ヶ月以内という期限のまま変わっていない
つまり、開業届自体の期限には余裕ができましたが、実務上はこれまでどおり早めに準備し、必要な書類とあわせて提出することをおすすめします。なお、開業日そのものに厳密なルールはなく、事務所を借りた日や事業用の準備を始めた日など、事業を開始したと言える日を自分で判断して問題ありません。
税務手続きは今後も改正が行われる可能性があるため、正確な期限は所轄の税務署でも確認しておくと安心です。
開業届の提出先・提出方法
提出先は納税地を所轄する税務署
開業届は、納税地を所轄する税務署に提出します。個人事業主の場合、納税地は通常、住民票のある自宅の住所(住所地)です。事務所を借りている場合など一定のケースでは事業所の所在地を納税地として選ぶこともできますが、多くの方は自宅の住所地で問題ありません。自分の納税地を管轄する税務署がどこかは、国税庁のウェブサイトで郵便番号や住所から検索できます。
提出方法は窓口・郵送・e-Taxの3つ
| 提出方法 | 概要 | 必要なもの |
|---|---|---|
| 窓口へ持参 | 管轄の税務署の窓口へ直接提出する | 開業届(提出用・控え用の2部)、本人確認書類 |
| 郵送 | 管轄の税務署へ郵送する | 開業届2部、本人確認書類の写し、控えの返送を希望する場合は切手を貼った返信用封筒 |
| e-Tax | 国税庁の「e-Taxソフト(WEB版)」等からオンラインで提出する | マイナンバーカード、読み取り用のスマートフォンまたはICカードリーダー |
窓口・郵送のいずれの方法でも、本人確認のためにマイナンバーカードの提示(または写しの添付)が必要です。マイナンバーカードを持っていない場合は、通知カードなどマイナンバーが確認できる書類と、運転免許証などの身元確認書類をあわせて提示・添付します。以前は押印が必要でしたが、現在は開業届の様式から押印欄自体がなくなっており、印鑑は不要です。
窓口・郵送で提出する場合は、開業届を2部作成し、1部を「控え」として保管しておきましょう。控えは、屋号入りの銀行口座を開設するときや、後述する小規模企業共済に加入するときなど、個人事業主であることを証明する書類として使うことがあります。
開業届の書き方(記入例)
続いて、開業届の主な記入欄と書き方を見ていきましょう。用紙は国税庁のウェブサイトからダウンロードできるほか、税務署の窓口でも入手できます。
| 記入欄 | 記入する内容 |
|---|---|
| 提出先・提出日 | 納税地を管轄する税務署名と、提出する日付 |
| 納税地 | 通常は住民票のある自宅の住所と電話番号 |
| 氏名・生年月日・個人番号 | 本人の氏名、生年月日、マイナンバー(個人番号) |
| 職業 | 実際に行う仕事の内容(例:Webデザイナー、コンサルティング業、飲食業など) |
| 屋号 | 任意の記入欄。事業で使う屋号があれば記入し、なければ空欄でよい |
| 届出の区分 | 「開業」に丸をつける |
| 所得の種類 | 事業所得・不動産所得・山林所得のうち該当するものにチェック(多くの個人事業主・フリーランスは事業所得) |
| 開業・廃業等日 | 事業を開始したと考える日 |
| 開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 | 青色申告承認申請書や消費税に関する届出書などをあわせて提出する場合にチェック |
| 事業の概要 | 実際に行う事業の内容をできるだけ具体的に記載 |
| 給与等の支払の状況 | 家族従業員・従業員を雇う場合のみ記入(該当者がいなければ空欄でよい) |
職業欄・屋号は自由度が高い
職業欄には、法律で決められた分類があるわけではなく、実際に行う仕事内容がわかる言葉を記入すれば問題ありません。「コンサルティング業」のような業種の大枠でも、「Webライター」のような具体的な職種でも、どちらでも構いません。
屋号(やごう、事業を行う際に使う名前で、会社名のようなもの)も任意の記入欄です。「〇〇デザイン事務所」のように屋号を決めておくと、屋号名義の銀行口座を開設しやすくなりますが、決めていない場合は空欄のまま提出して問題ありません。
事業の概要はできるだけ具体的に
「事業の概要」欄は、「Web制作業」とだけ書くよりも、「企業向けWebサイトの制作・運用サポート」のように具体的に書いておくのがおすすめです。事業内容を具体的にしておくと、後日、金融機関や取引先から事業内容を確認された際にも説明がスムーズになります。
開業届を出すメリット
開業届を提出すると、主に次のようなメリットがあります。
- 屋号入りの銀行口座を開設できる:個人名の口座と事業用の口座を分けて管理しやすくなります
- 青色申告を選択できるようになる:別途、青色申告承認申請書の提出が必要ですが、最大65万円の青色申告特別控除など、税制上の優遇を受けられる可能性があります
- 小規模企業共済など個人事業主向けの制度に加入しやすくなる:小規模企業共済(個人事業主の退職金制度にあたる共済制度)などへの加入審査で、開業届の控えが個人事業主であることの証明書類として使われることがあります
- 個人事業主であることの証明になる:事業用ローンの申し込みや、一部の補助金・助成金の申請の際に、開業していることの証明として使える場合があります
開業届を出すデメリット・注意点
一方で、開業届の提出には注意しておきたい点もあります。
雇用保険の失業給付を受けられなくなることがある
会社を退職して雇用保険の失業給付(基本手当)を受給中、またはこれから受給しようとしている場合、開業届を出して事業を始めると、原則として「失業の状態」にはあたらないと判断され、基本手当を受け取れなくなります。退職後に個人事業主として独立を予定している方は、提出のタイミングについてハローワークにも確認しておくと安心です。
社会保険の被扶養者から外れる可能性がある
配偶者や親の社会保険(健康保険)の扶養に入っている方が開業届を出すと、扶養から外れてしまう場合があります。ここで注意したいのは、税法上の扶養と社会保険上の扶養は判定基準が異なるという点です。
- 税法上の扶養(配偶者控除・扶養控除):年間の所得金額で判定されるため、開業届を提出したこと自体が直接の判定基準になるわけではありません
- 社会保険上の扶養(被扶養者認定):健康保険組合によって基準が異なり、所得が一定額を超えたときに扶養から外す組合もあれば、個人事業主として開業したこと自体を理由に扶養から外す運用の組合も存在します
家族の扶養に入ったまま開業を考えている方は、事前に家族が加入している健康保険組合に、個人事業主になった場合の扱いを確認しておくことをおすすめします。
開業届と一緒に検討したい書類・準備
青色申告承認申請書
開業届とあわせて提出を検討したいのが、青色申告承認申請書です。青色申告(最大65万円の特別控除など税制上のメリットを受けられる申告方法)を初年度から選択したい場合、この申請書を原則として開業日から2ヶ月以内に提出する必要があります。前述のとおり、開業届自体の提出期限は緩和されましたが、青色申告承認申請書の期限は変わっていないため、青色申告を考えている方は早めの準備が必要です。提出期限や書き方の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
日々の帳簿づけ・会計ソフトの準備
個人事業主になると、白色申告・青色申告いずれの場合も、日々の取引を記録する帳簿づけが必要になります。開業したばかりの時期に帳簿のつけ方の基本を押さえておくと、確定申告の時期になって慌てずに済みます。
帳簿づけは手書きやエクセルでも可能ですが、特に青色申告の65万円控除を目指す場合は、複式簿記(ふくしきぼき、取引を「借方」「貸方」の両面から記録する記帳方法)への対応が必要になるため、会計ソフトを使うとスムーズです。会計ソフトの選び方は以下の記事で比較していますので、あわせてご参考にしてください。
まとめ
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)のポイントを整理します。
- 提出期限は2026年1月1日以後の開業から「その年分の確定申告期限まで」に緩和されたが、実務上は早めの提出がおすすめ
- 提出先は納税地(通常は自宅の住所)を管轄する税務署
- 提出方法は窓口・郵送・e-Taxの3つ
- 職業・屋号・事業の概要などは自由度が高く、わかりやすい言葉で記入すればよい
- 屋号入り口座の開設などのメリットがある一方、失業給付や社会保険の扶養には注意が必要
開業届の提出自体はシンプルな手続きですが、青色申告承認申請書など、あわせて準備しておきたい書類もあります。この記事を参考に、開業の手続きを一つずつ進めていってください。
※本記事の内容は、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)に関する一般的な情報提供を目的としています。記入方法・提出手続きの詳細は所轄の税務署にご確認ください。
【筆者プロフィール】現役監査法人勤務の公認会計士。CPAラボ(cpalabo.com)にて会計・簿記・キャリア・お金に関する情報を発信中。


