「電子帳簿保存法に対応しないと罰則があるらしい」「会計ソフトを入れ替えないといけないのでは」――そんな話を耳にして、なんとなく身構えてしまっている個人事業主・フリーランスの方は少なくありません。一方で、結局自分は何をすればいいのかがわからず、不安なまま後回しにしてしまっているケースも多く見られます。

電子帳簿保存法は、実は内容が3つの区分に分かれており、そのうち個人事業主にとって「義務」となっているのはごく一部です。義務ではない部分まで対応しようとして混乱してしまっている解説も少なくありません。

この記事では公認会計士が、電子帳簿保存法の3つの区分を整理したうえで、個人事業主が実際に義務として対応しなければならない範囲は「電子取引データ保存」だけであることを明確にし、今日から具体的に何をすればよいかを実務目線で解説します。

なお、電子帳簿保存法は改正が重ねられてきた分野で、猶予措置の対象範囲など細かい要件は今後も変わる可能性があります。本記事は執筆時点で公表されている情報にもとづく一般的な解説ですので、正確な要件は国税庁の公式サイトや税務署、顧問税理士で最新情報をご確認ください。


Contents
  1. 電子帳簿保存法とは?まず3つの区分を整理する
  2. 個人事業主が義務として対応すべき「電子取引データ保存」を詳しく解説
  3. 電子取引データを保存するときに満たすべき2つの要件
  4. 小規模事業者向けの猶予措置(要件を満たせなくてもすぐには問題にならないケース)
  5. 対応しないとどうなる?リスクを正しく理解する
  6. 個人事業主が今日からやるべき電子帳簿保存法チェックリスト
  7. 義務ではないが検討する価値がある「帳簿」「紙書類」の電子化
  8. よくある疑問
  9. まとめ

電子帳簿保存法とは?まず3つの区分を整理する

電子帳簿保存法(でんしちょうぼほぞんほう)は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、会計帳簿や請求書・領収書といった国税に関係する帳簿書類を、電子データの状態で保存するための要件を定めた法律です。

この法律が定める保存方法は、大きく次の3つの区分に分かれています。

区分 対象 個人事業主にとって
①電子帳簿等保存 会計ソフトなどで最初から電子的に作成した帳簿・書類 任意
②スキャナ保存 取引先から紙で受け取った請求書・領収書などを画像データ化したもの 任意
③電子取引データ保存 メールやインターネット上など、電子的にやり取りした請求書・領収書等のデータ 義務

表のとおり、義務になっているのは③の「電子取引データ保存」だけです。この違いを混同してしまうと、「帳簿もすべて電子化しなければいけない」「紙の領収書もすべてスキャンしなければいけない」といった誤解につながりやすいため、まずはこの3区分をしっかり切り分けておきましょう。

区分①電子帳簿等保存:会計ソフトで作った帳簿データの保存(任意)

会計ソフトなどを使って最初からパソコン上で作成した帳簿(仕訳帳・総勘定元帳など)や書類(貸借対照表・損益計算書など)を、紙に印刷せず電子データのまま保存する方法です。青色申告の帳簿を手書きではなく会計ソフトで作成している個人事業主の多くが、実質的にはこれに近い状態で日々の記帳を行っています。

ただし、電子帳簿等保存はあくまで任意の制度です。会計ソフトで帳簿を作成している場合でも、印刷して紙で保存すること自体は問題ありません。

区分②スキャナ保存:紙の請求書・領収書をデータ化(任意)

取引先から紙で受け取った請求書や領収書、あるいは自分が紙で発行した書類の控えを、スキャナやスマートフォンのカメラで読み取り、画像データとして保存する方法です。要件を満たしてスキャナ保存を行うと、一定の条件のもとで紙の原本を破棄できるとされており、書類の保管スペースを減らせるメリットがあります。

こちらも電子帳簿等保存と同様、対応するかどうかは事業者の任意です。紙の領収書をこれまでどおりファイリングして保存する方法でも、税務上は問題ありません。

区分③電子取引データ保存:電子的にやり取りした証憑の保存(義務)

メールに添付された請求書PDFや、ネットショッピングの購入時にダウンロードした領収書データなど、最初から紙のやり取りが存在せず、電子的に授受した請求書・領収書等の取引関連書類を電子データのまま保存する方法です。このような取引の事実を裏付ける書類は「証憑(しょうひょう)」と呼ばれます。

この区分③だけは、他の2つと異なり、電子取引を行っている個人事業主を含むすべての事業者にとって対応が義務になっています。次の章で詳しく見ていきましょう。


個人事業主が義務として対応すべき「電子取引データ保存」を詳しく解説

そもそも「電子取引」に当てはまる証憑の具体例

「電子取引」と聞くと難しく感じますが、要は紙のやり取りを介さず、パソコンやスマートフォンの画面上だけで完結した取引に関する書類のことです。個人事業主・フリーランスにも身近な例として、次のようなものが挙げられます。

  • メールに添付されて届いた請求書・領収書のPDFファイル
  • ネットショッピング(Amazon、楽天市場など)の購入時にウェブサイト上でダウンロードした領収書・購入明細
  • Web上の管理画面から確認・ダウンロードするクラウドサービスの利用明細やクレジットカードの利用明細
  • EDI取引(企業間で電子的にデータをやり取りする仕組み)で授受した注文書・納品書
  • ホームページ上のフォームなどを通じて受け取った請求書データ
  • チャットツール(LINE、Chatworkなど)で送られてきた請求書・領収書の画像・PDFファイル

なお、取引先から受け取る請求書そのものの記載事項については、インボイス制度(適格請求書等保存方式)のルールとあわせて理解しておくと整理しやすくなります。インボイス制度の基本や個人事業主が登録すべきかどうかの考え方は、以下の記事で詳しく解説しています。

2024年1月から本格的に義務化された経緯

電子取引データ保存の義務化は、2022年(令和4年)1月の法改正で決まったものです。ただし、急な対応が難しい事業者が多かったことから、2023年(令和5年)12月31日までは、電子データを紙に印刷して保存することも認められる猶予期間が設けられていました。この経過的な措置は「宥恕措置(ゆうじょそち)」と呼ばれます。

この猶予期間が終了し、2024年(令和6年)1月1日以降にやり取りした電子取引データからは、原則として電子データのままの保存が本格的に義務化されています。

紙に印刷して保存するだけではNGになった

これまでは、メールで受け取った請求書PDFを紙に印刷し、他の紙の書類と一緒にファイリングして保存している個人事業主も少なくありませんでした。しかし2024年1月以降は、この「印刷して電子データは削除する」という保存方法は、原則として認められません。

印刷した紙を控えとして残しておくこと自体は問題ありませんが、それに加えて、元の電子データ自体も別途保存しておく必要がある、と理解しておきましょう。


電子取引データを保存するときに満たすべき2つの要件

電子取引データ保存の義務化にあわせて、保存する際に満たすべき要件も定められています。要件は大きく「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つに整理できます。

真実性の確保:データが改ざんされていないと言える状態にする

真実性の確保とは、保存されているデータが後から不正に書き換えられていないと言える状態を保つための要件です。一般的には、主に次のいずれかの方法で満たすとされています。

  • タイムスタンプ(データがある時点で確かに存在し、その後改ざんされていないことを電子的に証明する仕組み)が付与された状態でデータを受け取る、または受け取った後に一定期間内にタイムスタンプを付与する
  • データの訂正・削除を行った場合にその履歴が残る(または訂正・削除ができない)システムを利用する
  • 不正な訂正・削除を防止するための事務処理規程(じむしょりきてい、社内での取り扱いルールを定めた文書)を策定し、その規程にもとづいて運用する

このうち、個人事業主にとって現実的に取り組みやすいのは3つ目の「事務処理規程」の整備です。国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトでは、個人事業主向けの規程のひな形(サンプル)が公表されており、これをベースに自分の事業に合わせて作成すれば、専用システムを導入しなくても真実性の確保に対応しやすくなります。

可視性の確保:必要なときにすぐ確認・検索できる状態にする

可視性の確保とは、保存したデータを税務調査などの際にすぐに確認できる状態にしておくための要件です。一般的には、主に次の2点が求められるとされています。

  • パソコン・ディスプレイ・プリンタなどを備え付け、データを画面や書面で速やかに確認できるようにしておくこと
  • 「取引年月日」「取引金額」「取引先」を検索条件として指定できる、日付や金額の範囲を指定して検索できる、2つ以上の条件を組み合わせて検索できる、といった検索機能を確保すること(検索要件)

この検索要件は、特別なシステムがなくても、ファイル名に「日付・取引先・金額」を含めるルールを決めたり、Excelなどで取引の一覧(索引簿)を作成したりする方法でも満たせるとされています。ただし、後述する猶予措置の対象になる場合は、この検索要件自体が不要になるケースもあります。


小規模事業者向けの猶予措置(要件を満たせなくてもすぐには問題にならないケース)

「真実性の確保」「可視性の確保(検索要件)」と聞くと、専用のシステムがないと対応できないと感じるかもしれません。しかし、一定の要件を満たす小規模な事業者については、対応の負担を軽くするための猶予措置が用意されています。

検索要件が不要になるケース

一般的には、基準期間(個人事業主の場合、原則として前々年)の売上高が一定金額以下(目安として5,000万円以下とされています)の事業者や、税務調査の際に電子取引データをプリントアウトした書面を日付・取引先ごとに整理して提示・提出できる事業者については、前述の「検索要件」を満たさなくてもよいとされています。

ただし、この場合も、税務職員から電子データそのものの提出(ダウンロード)を求められた際に応じられる状態にしておく必要があります。多くの個人事業主・フリーランスはこの基準を満たすケースが多いと考えられますが、金額基準や条件は改正されることがあるため、断定はできません。

「相当の理由」があれば認められるさらに簡易な対応

さらに、システムの準備が間に合わない、対応する人手や資金の余裕がないといった「相当の理由」があると認められる場合には、真実性の確保・可視性の確保(検索要件を含む)といった保存要件そのものを満たさなくても、電子データを単に保存しておくだけで足りるとされる、より簡易な猶予措置も用意されています。

この場合も、税務調査などの際に、電子データのダウンロードの求めと、データを印刷した書面の提示・提出の求めの両方に応じられるようにしておくことが前提です。「相当の理由」に該当するかどうかについて事前の届出・承認は不要とされていますが、税務調査等で説明を求められた際に答えられるようにしておくと安心です。

自分がどちらに当てはまるか迷ったときは

猶予措置の対象範囲や要件は改正が重ねられてき
た分野であり、自分の事業がどのケースに当てはまるかを正確に判断するのが難しい場合もあります。判断に迷う場合は自己判断で放置せず、国税庁の公式情報を確認するか、税務署・顧問税理士に相談することをおすすめします。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm


対応しないとどうなる?リスクを正しく理解する

電子取引データ保存の要件に完全には対応できていない場合でも、そのことのみを理由に直ちに罰金が科されるという規定は、現時点では設けられていないとされています。国税庁も、要件を満たさない保存があったことのみをもって、直ちに青色申告の承認が取り消されるものではないという考え方を示しているとされています。

とはいえ、対応しなくてよいという意味ではありません。実務上は、次のようなリスクを理解しておく必要があります。

  • 税務調査の際に必要な証憑データを提示できないと、経費として認められにくくなったり、所得金額を推計で計算されたりする可能性が生じることがある
  • 電子データを意図的に改ざん・隠蔽していたと認められた場合は、通常より重い「重加算税(じゅうかさんぜい、申告内容に仮装・隠蔽があった場合に課される割増の税金)」の対象となる可能性がある
  • 証憑の管理体制が整っていないこと自体が、税務調査で他の項目の指摘を招くきっかけになりやすい

罰則の有無にかかわらず、日々の証憑を適切に保存しておくことは、確定申告の正確性を保ち、いざというときに自分自身を守ることにもつながります。


個人事業主が今日からやるべき電子帳簿保存法チェックリスト

ここまでの内容を踏まえて、個人事業主が今日から取り組める実務対応をチェックリストにまとめました。

  • 自分の事業でやり取りしている証憑のうち、「電子取引」に当てはまるものがどれだけあるかを洗い出す(メール添付の請求書、ネットショップの領収書、Web明細など)
  • 電子で受け取った証憑を「紙に印刷してから削除する」運用をやめ、元データを残す習慣に切り替える
  • 電子データの保存場所を1か所に決める(パソコン内のフォルダ、クラウドストレージ、会計・請求書ソフトの証憑保存機能など)
  • ファイル名に「日付・取引先・金額」を含めるルールを決めるか、Excelなどで取引の索引簿を作成し、検索できる状態にしておく
  • 国税庁が公表している事務処理規程のひな形を参考に、訂正・削除を防止するための社内ルールを整備する
  • 自分の売上規模や状況が、検索要件が不要になる猶予措置の対象に当てはまりそうか確認する
  • すでに紙に印刷したうえで電子データを削除してしまったものがないか確認し、可能な範囲で元データを探して保存し直す
  • 判断に迷う項目は自己判断で終わらせず、国税庁の公式情報や顧問税理士に確認する

まずは1つ目と2つ目、つまり「自分にとって何が電子取引に当たるかを洗い出す」「印刷して終わりにする運用をやめる」の2点から始めるだけでも、義務化への対応としては大きな一歩になります。


義務ではないが検討する価値がある「帳簿」「紙書類」の電子化

区分①(電子帳簿等保存)・区分②(スキャナ保存)は義務ではありませんが、対応することで得られるメリットもあります。余裕があれば検討してみましょう。

電子帳簿等保存のメリット:青色申告特別控除65万円にもつながる

会計ソフトで作成した帳簿を電子データのまま保存すると、紙で保存する場合に比べて、必要な帳簿をすぐに検索・確認できるメリットがあります。

さらに、一定の要件を満たした「優良な電子帳簿」として保存すると、青色申告特別控除(最大65万円)を受けるための要件の一つとして扱われます。65万円の控除は、e-Taxによる電子申告を行うか、この優良な電子帳簿による保存を行うかのいずれかが条件になっており、e-Taxの活用とあわせて検討する価値があります。e-Taxで確定申告をする具体的な手順は、以下の記事で解説しています。

スキャナ保存のメリット:紙の保管スペース・検索の手間を減らせる

要件を満たしてスキャナ保存を行うと、一定の条件のもとで原本の紙を破棄できるとされており、レシートや領収書がたまりやすい個人事業主にとって、書類の保管スペースを減らせるメリットがあります。ただし、要件はやや細かく定められているため、対応する場合は国税庁の情報を確認しながら進めることをおすすめします。


よくある疑問

Q. LINEやChatworkなどのチャットで受け取った請求書・領収書も対象になりますか?
はい、対象になると考えられます。チャットツールを通じて授受した請求書・領収書のデータも、紙のやり取りを介さない電子的な取引にあたるため、電子取引データ保存の対象に含まれます。

Q. クレジットカードのWeb明細も保存しておく必要がありますか?
クレジットカードの利用明細をオンラインで確認・ダウンロードしている場合、その明細が取引の証憑として扱われるケースでは、電子取引データとして保存が必要になることがあります。実際の請求書・領収書とあわせて、Web明細もダウンロードして保存しておくと安心です。

Q. すでに紙に印刷して電子データを消してしまった証憑がある場合はどうすればいいですか?
可能であれば、送信元のメールやサービスの購入履歴などから、元の電子データを改めて取得できないか確認しましょう。どうしても電子データを取得できない場合の取り扱いについては、自己判断せずに税務署や顧問税理士に相談することをおすすめします。

Q. 会計ソフトを導入すれば電子帳簿保存法にすべて対応できますか?
多くのクラウド会計ソフト・請求書ソフトは、電子取引データ保存の要件(検索機能や訂正削除履歴の記録など)に対応した保存機能を備えています。ただし、ソフトを導入するだけでなく、受け取った請求書・領収書のデータを実際にソフトへアップロード・保存する運用を続けることが前提になります。ソフト選びで迷う場合は、以下の記事で会計ソフトを比較していますので参考にしてください。


まとめ

電子帳簿保存法に関するポイントを整理します。

  • 電子帳簿保存法には「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの区分があり、個人事業主にとって義務なのは「電子取引データ保存」だけ
  • メールで受け取った請求書PDFやネットショッピングの領収書データなど、電子的にやり取りした証憑は、紙に印刷するだけでなく電子データのまま保存する必要がある
  • 保存にあたっては「真実性の確保」「可視性の確保(検索要件)」という2つの要件を満たす必要があるが、小規模な事業者向けの猶予措置も用意されている
  • 対応していないことへの直接的な罰則は定められていないとされるが、税務調査で証憑を提示できないなどの実務上のリスクはある
  • 帳簿(電子帳簿等保存)やスキャナ保存は義務ではないが、対応すると業務効率化や青色申告特別控除65万円にもつながるメリットがある

電子帳簿保存法は名前だけを聞くと難しそうに感じますが、個人事業主が最低限やるべきことは、「電子的にやり取りした証憑を、印刷するだけで終わらせず、データのまま整理して保存しておく」という一点に集約されます。まずは今日、電子で受け取った請求書・領収書を保存するためのフォルダを1つ決めるところから始めてみましょう。

制度の詳細や自分のケースへの当てはめについては、国税庁の公式情報で最新の内容を確認するか、判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。なお、日々の帳簿づけや経費管理の基本を見直したい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としています。電子帳簿保存法は改正が重ねられている分野であり、保存要件・猶予措置の対象範囲などの詳細は、国税庁の公式サイトや税務署、顧問税理士で最新情報をご確認ください。

【筆者プロフィール】現役監査法人勤務の公認会計士。CPAラボ(cpalabo.com)にて会計・簿記・キャリア・お金に関する情報を発信中。